人材育成や組織開発の課題としてたびたび聞こえてくる「40~50歳前後のマネジメント層強化」。
彼らは「ロスジェネ(ロストジェネレーション)」とも言われ、就職氷河期とされた1992年から2004年頃に社会人になった世代です。
バブル崩壊や雇用情勢の変化に直面し、多くの人が「正社員として就職する」ということが非常に困難だったなか、そのような時勢を乗り越え、見事自らのチカラで今のポジション(マネージャー職)に就いた非常に優秀な人々です。
そんな方々をスパークルチームでは、「ロスジェネマネージャー」と呼んでいます。
●Point
ロスジェネとは「ロストジェネレーション」の略で、「失われた世代」とも言われ、1992年から2004年頃に社会人になった世代、つまり1970年~1982年頃に生まれた世代で、バブル崩壊後の就職氷河期に社会人になった方々のことを指します。
大卒就職率ワースト1位が2003年の55.1%、ワースト2位が2000年卒の55.8%、という非常に就職難だった時代で、第1志望ではない企業への就職や、非正規雇用の増加、そしてアントレプレナー(起業家)といったキーワードが象徴するように、企業への就職が難しくなったと同時に、働くことへの概念が大きく変わった時代でもあります。
しかしながら、そのような経済的に厳しい状況や社会的な変革に直面した経験と、それらを自らのチカラで乗り越えた自負があるばかりに、Z世代と言われる昨今の若手部下とどうしても「価値観の違い」が生じてしまい、指導や関わり方に悩んでいる「ロスジェネマネージャー」が多くいるのも事実です。
スパークルチームは、そのような葛藤と憂いを抱える40~50代のマネージャーを救うため、管理職育成やキャリア開発など様々な観点から研究を続けています。
その中でも今回はロスジェネマネージャーを救う方法として『禅』にフォーカス。
哲学や実践に基づく心の状態や意識のあり方である「禅」を基軸に、企業経営や組織開発を支援している株式会社シマ―ズ 代表取締役 島津清彦さんに、禅を活用した人材・組織開発研修の取り組みや、参加者のその後の変化などについて聞いてきました! ※島津さんはスパークルチームの顧問でもあります
島津 清彦さん(禅マインドプロデューサー)
元 スターツピタットハウス代表取締役社長
元 ソニー不動産取締役
前職スターツグループでは、取締役人事部長として延べ6,000人の採用面接を行い、急成長する組織の制度と風土改革を実行。その後グループ会社2社の経営トップとして、1社は5年間で約5億5千万円の営業損益を改善。1社は過去最高益を達成する。これらの現場体験から得た経営の「実践知」を日本の企業に広く提供すべく、2012年に独立起業。人財・組織開発・経営コンサルティング会社を設立。
禅マインドプロデューサー 島津清彦さんって一体何者!?
―――大手企業の社長を経て、今や「禅マインドプロデューサー」として多方面でご活躍されている島津さんですが、これまでの経歴を改めて教えていただけますか?
島津さん:
私は、バブル直前の1987年に新卒でスターツコーポレーション(当時:千曲不動産株式会社)に入社しました。
その頃はまだ200人規模の中小企業でしたが、これから成長する可能性のある企業に入って自分も一緒に成長したいという想いが強かったんですよね。ですので周りの友達が大手に就職するなか、自分ひとりだけ中小企業を選んだ、という感じで、ゼミの先生にも目を丸くして驚かれたのを覚えています。
スターツに入社してからは、トータルで25年間勤務しました。最初は不動産の営業担当から始まり、各部門の本部長や人事部長などを経験しています。
人事部長の時は、採用や育成、評価、人事ローテーションなどを管掌し、制度や風土変革といったいわゆる戦略人事の領域もグループ全体を対象にマネジメントしていました。
その後、M&Aしたグループ子会社を再生したり、「ピタットハウス」の社長も務めました。ちなみにスターツ卒業後はソニー不動産の創業に役員として参画もしています。
―――すごいご経歴ですね。一言でいうと、「新卒で入社してそのまま社長になった」というか。
たしかにそう言えますね(笑)
もともと学生時代からの目標としては「社長になること」だったので、そこは一応達成したのかなと。
でも順調に聞こえるかもしれませんが、最初は地を這うような営業マンでしたね。「光」の部分が100あったとすると、「闇」はそのウン百倍といった感じです。そのあたりはロスジェネ世代の皆さんとどこか通ずるものがあるかもしれません。
―――約25年勤め、社長経験まで積んだ会社を卒業しようと思った理由は何だったんでしょうか?
理由はさまざまあるのですが、きっかけの一つとして、東日本大震災があります。
当時、震災で自宅の敷地が液状化、半壊してしまったんですよね。なので家族と一緒にホテルを自宅代わりに借りて、お風呂や洗濯、洗い物はホテルでする、という生活をしていました。
そんな大変な状況のなかでも社長として会社の経営を止めるわけにはいかず、夜遅くまで会社で働いて、帰宅後は自宅とホテルを往復する、そんな毎日を過ごしていました。
でもある時ふと、「僕は何のために働いているんだろう?」と思ったんですよね。
自宅に帰れば不安定な生活環境もあって家族はぐったりしている。田舎の親戚は津波に飲まれ、いまだに見つからない―――そんな時になぜ自分は遅くまで仕事をしているのか?何のために社長になったのか?と。
そこで、後悔しない生き方は何なのかと自問した時に、今の会社を卒業しようと決断しました。
人事部長として、そして社長として組織開発を経験していくなかで得た「一人ひとりの可能性を引き出せたら、”最強のチームで勝てる”」という理念をベースに、自分の会社だけでなくもっと広く、様々な企業や経営者をサポートしたい、役に立ちたいと思ったんです。
新卒からお世話になり育ててもらった会社を卒業するのは苦渋の決断ではあったのですが、自分の魂と言いますか、自分の中で何かが起こったのか分かったのです。
なぜ「禅」なのか? 40-50代のマネージャー層にオススメな理由
―――そのなかでどのようにして「禅」に出会ったのですか?
独立して経営・組織コンサルとしてたくさん講演をさせていただいていた中、とある方に「島津さんの言うことってなんか禅っぽいよね」って言われたのが最初です。
そこから禅に興味を持ち、色々と調べているなか、知人から「青森のお寺の住職が東京に出てきて経営者に禅を教えている」と聞いて、会いに行ったんです。
その時にその方から、「真理を探求し、世の中のために生きる」という禅の生き方を教授いただき、猛烈に感化された私はその場で「弟子入りお願いします!」と言いました。
相手もびっくりしてましたね。出家するという意味を分かっていないままで弟子入りを申し込んできているんですから(笑)
そこからその方は私の師匠になりました。
身一つで来なさいと言っていただき、儀式をして戒律を授かり、お坊さんの名前も授かりました。そこから私の修行がスタートしたということです。修行と言っても、ビジネスパーソンしながら続けていたので、「半僧半俗(※)」です。
ですので禅との出会いは、運命と言えば運命、偶然と言えば偶然です。
※半僧半俗…僧でありながら、なかば俗人(一般人)のような風体、または生活をしている事や人のこと。
―――実際に出家してみてどうでしたか?
出家すると覚悟を決めた瞬間、自分がすごくクリアになったのを覚えています。ピュアと言うか、純粋な菩提心で出家したので、その頃の自分の写真を見ると、驚くほど澄んだ目をしているんですよね。
それまでサラリーマン社長として怒涛の日々を送っていたので、その頃の自分とのギャップが凄くて。
修行としては、お寺で数日間過ごし、あとは仕事をしながら日常生活のなかで座禅をしたり、経典に書いてある真理を読んで勉強しました。
座禅はいわゆる東洋的な根本療法みたいなもので、毎日続けていると「マインドの体質改善」がされ、心がどんどん整い、同時にしなやかになっていくんですよね。
なので怒りにくくなったり、落ち込みにくくなったりと、次第に心が変わっていきました。
―――そのような島津さん自身の経験を、組織開発コンサルティングに活かすことにしたということですね
そうですね。経営面でも人間関係でも、苦しんでいる経営者や管理職をたくさん見てきました。
こういった苦しみの原因は、禅の教えでは「必要以上のこだわりや執着」と教えられます。
つまり、自分の中の「執着」が、苦しみを生んでいるということなんです。たとえば、自分の地位や名誉を維持したい時に外部から攻撃をされてしまうと、自分の存在が脅かされていると感じ、こちらからも攻撃をしてしまう、といった点です。
なのでその「執着」をいかに手放すか。
その禅の教えを経営者や管理職層に伝え、マインドの部分から企業や組織をより良くしたいと思っていますし、40-50代のマネージャー層を改善するには、もうホント、禅しかないと思っています。
禅を活用した管理職研修でロスジェネマネージャーを救う
―――禅を活用した経営者・管理職研修として、具体的にどのようなことをしているのですか?
私が提供している研修では、半日や一日のプログラムとして座禅を組んだり、先ほど述べた「執着」をどう取っていくかなどの禅の教えやマインドの話を何時間もかけて対話したりしています。
座禅では私が「警策(きょうさく)」という棒を持ち、動いたりなどうまく坐れていない人を叩くのですが、経営者や管理職のような普段あまり怒られたりしないような方は、やはり最初は驚きますよね。なかには「痛いな!」と怒る方もいます。
それでも私は意に介さず、「動きましたから」と言って続けていきます。
そうやって時間をかけて、自分の固定概念や先入観、また自分を守ろうとする執着を、ある意味身体の感覚からほどいていくことで、最初は眉間にしわを寄せていた方も、徐々に表情が穏やかになっていき、終わった頃には非常にスッキリとした顔になって帰っていかれます。
禅のマインドを頭だけでなく身体から取り入れているというこの経験が何かのスイッチとなり、それ以降、部下との接し方が変わったという報告もよく頂きます。
―――それは彼らの中で何が大きく変わったからなのでしょうか。
囚われから解放されて、今までの自分に対する新たな気付きが生まれているんです。
例えば、「挨拶」という言葉がありますよね。研修で「この語源は何ですか?」と経営者たちによく問うていますが、みなさん正確には答えられません。
実は禅の教えで、「挨拶」の「挨」には”押す”という意味があり、「拶」には”迫る”という意味があります。これは、師匠が弟子の状態を観察する、ということなんです。
つまり「挨拶」は、目上の人が目下の人の状況をチェックするためのものであり、部下からの挨拶を要求するものではないのです。
なので管理職たるもの、職場に着いたら部下に「挨拶」として、自ら歩み寄らなければなりません―――というような話をしていると、みなさん葛藤をし始めるんです。
「やべぇ、昨日新人に挨拶来いって言っちゃった」という風に(笑)
このように、研修で禅の言葉の意味を紐解きながら色々とお伝えしていくと、今まで自分がやってきたことが本当は違ったのかな、真逆のことをしていたのかも、といった気付きが生まれてくるんです。
そうやって知恵が凝縮されていくことで、徐々にみなさん心が柔らかくなっていきます。
もちろん、人によって変わる人もいればすぐには変わらない人もいます。だからこそ日々の生活に座禅を取り入れることで、少しずつ自分自身を変えていくことができます。ちなみに私は11年やっているので、だいぶ変わりました(笑)
―――これは確かに、これまで積み上げてきた自分の実績と現状の差に葛藤を抱いているロスジェネマネージャーには有効な施策となりそうですね。
まさにその通りだと思います。禅を通して本質が見えてくることで、様々な感覚が冴えわたり、センサーが磨かれていきます。
そうすることで、相手が何を考えているのかが分かるようになるんですよね。
今まで相手の考えをうまく感知できない状態で自分の球を投げ続けていたような方も、こういったトレーニングを重ねていくことで、身にまとっている鎖やトゲをどんどん取っていくことができ、本来の自分らしさを持って生きていけるようになります。
その姿を見せることが、Z世代のような若手とのコミュニケーションにも活きますし、管理職として不確実性の高いこの時代においても適切な意思決定をしていくことができると考えます。
「アナと雪の女王」のテーマソングの歌詞、「♪ありの~ままの~~姿見せるのよ~~~」は、まさに禅です(笑)
―――島津さん、貴重なお話をありがとうございました!
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