
「入社後の3年間」という期間は、この時期の過ごし方で一生が決まると言っても過言ではないほど、自己成長や今後のキャリア形成の基盤を築いていく非常に重要な時期です。
この期間において、若手社員が自らのキャリアを主体的に考え、そして学び、行動していけるような土台を作る支援をしていくことが、将来的には企業としての生産性向上や競争力強化など、組織・企業全体の持続的な成長に繋がっていきます。
そんな彼らの「入社後の3年間」に対し、人事・人材開発担当はどう向き合い、サポートしていくとよいのでしょうか。
この記事では、若手社員がキャリア自律を実現するためのポイントとして、「年代視点」と「世代視点」を組み合わせたアプローチ法についてご紹介します。
この記事の目次
若手社員(1-3年目)のキャリア自律とは
まずは、ここ数年でよく耳にするようになった「キャリア自律」について説明します。
キャリア自律の定義として最も有名なものは、米国キャリア・アクション・センターが1990年代に発表した「急速に変化する環境の中で、自分の仕事生活と学習を積極的にマネージする能力」があります。
つまり、「キャリア自律」は「能力」であり、その能力には自己管理や柔軟性、継続的な学習といったスキルを含みます。この能力を持ち続けることで、変化に対して迅速に適応し、キャリア成長を促進することができる、というものです。
ちなみに日本では、職業能力開発促進法によって「職業生活の設計とそのための能力開発を社員が自発的に行うこと」とも定義されています。ここでは、『能力』そのものを向上する『能力開発』というものが重視されています。
これらを踏まえ、スパークルチームではキャリア自律を以下のように定義しています。
「キャリア自律とは、ビジネスパーソン一人ひとりが高い自己信頼のもと、自分のキャリア=人生を自分の手で作り上げる能力。それを身につけるために、学び、行動実践し続けること」
ここには、キャリア成長を実現するための能力開発だけでなく、それを身に付けるための「学習」や「行動」といったプロセスが必要であり、そのためには「ほかの誰かと比べて違う何かにならなくて良いんだ」という自己信頼が大切である、という想いを込めています。
これを社会人1年目から行動様式としてインストールすることで、キャリア自律につながる行動を促していくことができると考えています。
「キャリア」と聞くとどうしても30代や40代といった一定の経験を持つ方々に対する言葉のように感じてしまいますが、「キャリア自律の状態を創る」ためには、実は若手時代からの意識的な取り組みが必要不可欠なのです。
ではここから、それを実現していくためのポイントについて解説していきます。
1-3年目のキャリア自律を実現するためのポイント:「年代視点」と「世代視点」
若手社員の成長支援においてポイントとなるのは、「年代視点」に加え、「世代視点」も捉えながらアプローチしていくことです。
まず「年代視点」のアプローチとは、「1~3年目」という年代で見た時にどの時代においても共通して必要とされるスキルや能力を開発することを指します。
例えば、社会人と学生との違いや相手の立場に立つことの重要性、といった仕事の基本スタンスや、コミュニケーションや課題解決といった基礎的なスキル、成長に向けて学び続ける学習能力などが含まれます。
社会人として身に付けるべきスタンスや基礎能力を育成することは、どの世代においても重要であり、持続的に磨き続けることで、時代の変化や新たな課題にも対応できる社会人を育成することができます。
一方で「世代視点」のアプローチとは、彼らがこれまで育ってきた時代特有の文化や価値観、環境を踏まえた能力開発を支援していくことです。
例えば、氷河期世代を生き抜いてきた40代とZ世代と言われる20代では、育ってきた環境が全く異なります。社会背景も違えば、教育環境やテクノロジー活用の度合いも異なるため、世代による特有の課題や強み、彼らのニーズも異なってきます。
よって、その世代特有の背景や価値観に応じてアプローチを変えていくことが重要になります。
このような「年代視点」と「世代視点」の両方を掛け合わせて、育成などにおける戦略や具体施策を考えていくことがポイントです。
もし「年代視点」だけを重視してしまうと、毎年同じような支援施策となってしまい、アップデートのない”古い施策”に留まってしまいます。逆も然りで、「世代視点」だけを重視してしまうと、数年ごとにメッセージが変わる”軸のぶれた施策”となり、組織全体の一貫性を欠く可能性が出てきてしまいます。
年代だけでなく彼らの世代背景をも正しく把握し、双方の強みを活かした施策を展開することで、有効なキャリア自律の支援施策へと昇華していくことが出来ます。

1~3年目という時期に必要な要素3つ
では、具体的に「年代視点」と「世代視点」をどう掛け合わせていくとよいのでしょうか。
年代視点で見た時に、1~3年目の社員の成長促進に必要な要素は、「①自己認識力を高める」「②良質な失敗体験を積む」「③成功体験を積む」です。この3つは密接に関連しており、歯車のようにうまく回していくことが大切です。
これに対し、どう「世代視点」を組み合わせて考えていくべきか、それぞれの要素について解説していきます。

年代視点で見た成長要素①「自己認識力を高める」
「自己認識力(self-awareness)」は、自分自身の感情、思考、行動、価値観、強み、弱みなどについて深く理解し、把握する能力を指します。
この能力は、本記事のテーマであるキャリア自律だけでなく、心理的安全性やエンゲージメント、学ぶ力など、昨今必要とされている個人の成長を通じた持続的な組織成長という面においても必要不可欠な能力とされています。
また、「自己認識力」は、「内面的自己認識力」と「外面的自己認識力」に分解されます。
「内面的自己認識力」は、自分自身の内側、つまり感情や思考などを理解・認識する力で、自分がどんなときにモチベーションが上がる(下がる)のか、何にワクワクするのか(ざわざわするのか)、といったことを理解することができます。
「外面的自己認識力」は、自分自身が他者からどのように見られているのか、自分の言動が周囲に対してどんな影響をおよぼしているのかを理解する力です。
内面的自己認識力を高めるためには「振り返り」が重要となり、外面的自己認識力を高めるには「周囲からのフィードバック」が効果的です。この両面をすり合わせていくことで自己認識力は高まっていきます。
このような「自己認識力」は、能力が高いと仕事のパフォーマンスが高まり、昇進しやすくなったり、より有能なリーダーになって部下の満足度も高まっていくといったことが、さまざまな研究によって解明されています。
一方で自己認識力が低いと、感情管理が難しくなってしまったり、対人関係で問題を起こしてしまったりなどが懸念され、仕事のパフォーマンス低下だけでなく、最悪の場合はパワハラにも繋がっていく恐れがあります。
よってこの自己認識力は、全ての社会人において重要な要素となります。
しかしながらこの能力は、一定の年代や役職になったときに自動的に高まっていくようなものではありません。むしろ、年代が上になるにつれて高まりにくいと言われています。
つまり自己認識力は、初期キャリア、つまり若手のころから開発し続けていくことが重要な能力であり、ひいてはそれが彼ら自身のキャリア自律に直結していくものになります。
世代視点:客観的に強みを把握し、「自信がない問題」への対処法を学ぶ
では、「世代視点」も踏まえて、この「自己認識力」をどう高めていくとよいでしょうか。
まず、現代の若手社員の世代的特徴として「自分に自信がない」という点が挙げられます。加えて、彼らの自信は他者承認によって引き上げられる、という傾向も見えています。
つまり、彼らの自己認識力を高めるには、他者承認をうまく活かしながら自己承認を高めていくことがポイントとなります。そうすることで、「自信がない問題」に対してもうまく対処できる能力を身に付けることができます。
そこで、上記で述べた「周囲からのフィードバック」といった他者による直接的な承認もうまく活用しつつ、彼らの能力を明確に可視化できるアセスメントツールを活用し、客観的なデータで本人に自信を持たせる取り組みが有効です。
そのアセスメントツールにもさまざまな種類がありますが、目的に合わせて正しく選定することが重要です。
スパークルチームでは、「ストレングスファインダー(正式名称:クリフトンストレングス)」という米国の調査会社であるGallup社が開発した、ビジネスシーンに特化したアセスメントツールの活用を推奨しています。
ストレングスファインダーを受検すると、一人ひとりの強みの源泉である「資質」が結果として示され、自分自身がどんな強み(才能)を持っているのか、またそれをどう活かすことで仕事や人間関係にポジティブな影響を与えるのかを客観的に把握することができます。
ストレングスファインダーのような信頼性のあるアセスメントツールを活用することで、現代の若手社員は自分の強みを正しく捉えることができます。
これにより、自己承認を高めるだけでなく、今後「自信がない」というシーンに直面した時には、その問題に向き合うための「対処法」となっていくのです。
ネガティブな事象に対する恐れが強い世代だからこそ、無自覚なうちに問題をなかったことにしてしまう側面もある世代ですが、「うまくいかない自分の行動に対してもにも対処法がある」ということを学ぶことで、彼らの成長を大きくサポートしていくことができます。

年代視点で見た成長要素②「良質な失敗体験を積む」
続いて、若手社員の成長支援に必要な要素として、「良質な失敗体験」が重要です。
「良質な失敗体験」とは、その失敗体験から学びがあることを指します。
例えば、その失敗から自分の癖を理解することができたり、この行動や思考のプロセスを振り返ることができる、などです。
このような「学び」がないと、失敗した事実だけに目が行ってしまい、プロセスに焦点をあてて考えることが出来なくなってしまいます。その結果、「自分には適性がない」、「上司や先輩は忙しいから仕方がない」と周囲に原因を置いて諦めてしまったりします。最悪の場合、その思考が周囲にも悪影響を与えます。
そうなってしまうと、貴重な「初期キャリアでの失敗」が良い体験とは言えなくなってしまいます。
この失敗を、彼らにとって学びがあるようにデザインしてあげることが重要です。
なぜ失敗したのか、そのプロセスを一緒に考えてもらうよう、自らフィードバックを求めることの有効性と心理的ハードルを下げることで、自ら周囲へのサポートを取りに行けるようになり、彼らの視点は広がり、次の行動が明確になっていくのです。

世代視点:「失敗」を「あちゃー」に変えることで行動量を増やす
では、その失敗をどうデザインしていくとよいでしょうか。
そこが「世代視点」を取り入れるべきポイントとなります。
「良質な失敗体験」を積むためには、行動量が重要となります。いかに多くのチャレンジをして、その中で学びのある失敗をしていけるか。その量が、彼らの今後の成長を左右します。
しかしながら、昨今の1~3年目の世代には「失敗が怖い」という特徴があります。
失敗することへの恐れが過剰に強い世代であるため、必然的に行動量が減ってしまうのです。
そのため、例えば入社式で社長がよく言うような『1年目はたくさん失敗してください』というアドバイスは、今の若手には効果的ではなく、むしろ動けなくなるという実態も生じています。
そこで、「良質な失敗」に向き合う行動を促す仕掛けとして、『「失敗」という言葉を「あちゃー」に変えてみる』という方法をスパークルチームでは推奨しています。
「あちゃー」という言葉に置き換えることで、「失敗」=「人生が詰むもの」ではなく、リカバリーが出来るものであり、さらには「行動した証」であるものと認識付けることができます。
日々のコミュニケーションや1on1などにおける共通言語として活用するのも良いですし、「あちゃーポイント」として溜めていくような仕掛けを作っても良いです。
大事なのは、その「あちゃー」に対して若手社員が振り返りをする時間を持つことです。
何が「あちゃー」だったのか、何が上手くいかなかったのか、そのプロセスを具体的に見直してもらうのです。
この振り返りを通じて、彼らの中でも失敗の原因や改善点を明確することができ、失敗は怖いものではなく次のチャレンジに活かすためのものであるという意識を定着させることができます。
このような仕掛けを作ることで、結果的に「良質な失敗体験」を積むことができ、失敗を糧にした前向きな姿勢を持続的に育むことができます。


年代視点で見た成長要素③「成功体験を積む」
最後は、「成功体験を積む」という要素です。
初期キャリアにおいて経験すべき成功体験には、「個人としての成功体験」と「チームとしての成功体験」の2種類があります。
まず、個人としての成功体験は、自分にとって(少しだけでも)高いハードルを越えた経験を指します。
もっとも大事なのは、この体験をしっかりと認識することです。これにより、失敗から学び、成功へとつなげる力を育むことができます。
次に、チームとしての成功体験は、チーム全体で高いハードルを乗り越えた経験を指します。キャリア理論においても、初期キャリアでのチームの成功体験が重要であるとされています。チームの中でサポートし合いながら乗り越えた経験は、個々の成長とチーム全体の強化に繋がっていきます。
これらの経験を通じて、若手社員は自己成長の基盤を築き、将来的なキャリア自律につなげることができるのです。
世代視点:「出来る気がする」という気持ちが「行動」へと繋がる
では世代視点で見た時に、この「成功体験を積む」を促進するには何がポイントとなるでしょうか。
やはりここでも大事なのは、上記の「良質な失敗体験を積む」でも述べた、行動量です。たくさんの行動を起こすことで、失敗も成功も経験できるのです。
よって、失敗を怖がるという世代的特徴を踏まえると、「失敗」を「あちゃー」に置き換えるという手法もうまく取り入れつつ、もう一つの大事なポイントとして、「出来る気がする」と思わせることです。
そのためには、やりたくなる、チャレンジしたくなる状態を作ってあげるとともに、失敗したときの対処法を持たせ、それを「乗り越えた」と自覚させることが重要です。
その対処法の根幹となるのは、やはり「自己認識力」です。
この能力は、社会人として自己成長し、成果を求め続ける人材になるために必要不可欠な要素となります。
自分の能力や強みを正しく把握することで、失敗を予測しながら行動をすることができるため、「行動」に対する極端な恐れが低減されます。
そしてその行動を通じて「成功体験を積む」ことが出来れば、いわば「弱みを克服できた」と認識することができ、彼らにとって「自信」に繋がっていきます。
これらの一連のプロセスによって、彼らを「出来る気がする」と思わせることができ、個人またはチームとしての成功体験へと昇華させていくことが出来るのです。
また、一人で挑戦するのではなく、同期同士などと一緒に頑張るという関係や、その環境を整えることも不可欠です。こうした環境を提供することで、若手社員は自信を持ち、さらなる挑戦を恐れずに行動できるようになっていくのです。
ニューノーマル時代の若手社員の特徴
ここまででお伝えした通り、1~3年目の若手社員のキャリア自律を促進するためには「年代視点」と「世代視点」を掛け合わせたアプローチが重要なポイントとなります。
世代によって大切にしている価値観が異なってくるため、物事の見方や生活感、幸せの基準、さらには恐れに対する感覚も異なるため、そのような世代の違いを踏まえた「仮説」を持って、最適なアプローチを組み立てていくことが大切です。
最後に、現代の1~3年目の世代を育成する上で押さえておきたい特徴について整理します。
■ニューノーマル時代の若手社員の特徴
1:量よりタイパ :やっても上がらない」不況のなかで生まれ育った
現在の若手社員は、不況期に生まれ育ったため、努力しても結果が伴わない経験を多く持っています。そのため、効率を重視する傾向が強く、時間対効果(タイパ)を優先します。長時間の努力よりも、短時間で成果を出すことに価値を見出します。
2:最初はサーチモード:1つのやらかしはSNSで拡散。失敗から身を守る傾向に。
SNSの普及により、一度の失敗が瞬時に広まってしまうという現実を身近に接触している世代です。
そのため、失敗を避けるために安全策を取るという傾向が強く、新しいチャレンジをする前にリサーチを徹底する「サーチモード」に身を置きます。最初の行動をする前にリスクを最小限にするための情報収集を欠かしません。
3:対面コミュニケーションが激減:感情・非言語的コミュニケーション力が未熟
コロナ禍により、対面でのコミュニケーションの機会が大幅に減少し、大学の授業や就職活動など、彼らを取り巻く環境もオンラインが中心となっています。
その結果、感情の読み取りや非言語的なコミュニケーション(表情、ジェスチャー、トーンなど)を鍛える機会が少なくなってしまい、これにより、対面でのコミュニケーション能力が他の世代と比較して不足している傾向があります。
このような世代の特徴を理解し、うまく施策に組み込むことによって、彼らの自己成長や今後のキャリア形成の基盤をサポートしてあげることが出来ます。
スパークルチームでは、これまでに培った人材・組織開発に関するナレッジをふんだんに盛り込んだ、若手社員のキャリア自律に特化した研修プログラムをご用意しています。
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