VUCA時代の企業成長において、もはや欠かすことが出来ない社員のキャリア自律。
主体的に自身のキャリアと向き合い、将来に向けて自己投資できる人材こそが、新しいモノや価値を生み出し続けると言われています。
前回の記事では、社員のキャリア自律を促す「キャリア面談(1on1)」のポイントについて、ご紹介しました。
今回は、社員のキャリア自律を支援するさまざまな取り組みの“根幹部分”を担う「キャリア研修」について、キャリアプロデューサーである あかねさん、そしてナビゲーターとしてスパークルチーム 代表 楠 麻衣香に、現場で起こっている課題や解決方法などについて話を聞いてきました!
【プロフィール】伊名岡 茜(あかね):キャリアプロデューサー
大学卒業後、大手IT企業に入社。希望していた営業部門に配属されるが、突然の辞令により企画部門へ異動。それがきっかけとなり”キャリア形成”に興味を持ち、働きながら1年かけて「キャリアカウンセラー」を取得(後に「キャリアコンサルタント(国家資格)」も取得)。
その後、希望異動により人事部に配属され、キャリア開発施策(キャリア面談、キャリアデザイン研修)を導入。
企画・立案、運用だけではなく、講師として約400名の研修を担当。その他、人材育成担当として、新人研修、若手選抜研修などにも携わる。
派遣会社にて派遣スタッフへのキャリア形成支援の施策導入とキャリアコンサルタントの育成に従事し、2019年、キャリアコンサルタントとして独立。現在は、企業の人材開発や学生の就活支援を中心に活動中。
この記事の目次
あらゆるキャリア支援施策の土台となる「キャリア研修」
キャリアとの向き合い方を考える
まずは前回の振り返りとなりますが、VUCA時代を生き抜いていくには自分のキャリアを自律的に考えていく力が必要で、企業はそこを支援していく必要があるということですよね。
はい。今はいつ会社が倒産してもおかしくない時代に突入しています。そんななかモチベーション高く働いていくには、会社に依存しない「個人」としてのビジョンを明確に持ち、そこへ向かって自らスキルアップ(能力開発)や具体的な行動ができる人になっていくことが重要ですし、企業もそのような人材を求めています。
一方、企業としても、個人のキャリアを理解し支援するような「選ばれる企業」にならないと優秀な人材は集まりません。
キャリアを自律的に考えられる優秀な人材は、自社内に留まらない広い視野で自分の人生を考えていくことができますからね。
それに今、大学ではキャリアに関するカリキュラムが授業に組み込まれているので、学生からも就職先として候補から外れてしまう懸念もあります。
人材確保の観点でも社員のキャリア開発支援は必要であると。
そのような企業がキャリアを支援する取り組みとして、今回のテーマである「キャリア研修」や前回の「上司と部下の1on1」が挙げられますが、その他にはどのような施策があるのでしょうか?
代表的なものでいうと「キャリアプランシート」や「キャリアコンサルティング(キャリアカウンセリング)」ですね。
キャリアプランシートは、年に一度や数年に一度、社員に将来自分がどうなりたいかを記載してもらい、それを組織改編や部署異動などの際に参考にするものとして導入されています。
キャリアコンサルティング(キャリアカウンセリング)も、社員一人ひとりに対しその人にとって望ましい仕事のあり方などを会話ベースに引き出し、キャリア開発を促していく取り組みです。
外部の専門家に依頼して実施するケースもあれば、社内でキャリアコンサルタントやキャリアカウンセラーの資格を持っている社員が実施するケースもありますね。
キャリアプランシートは私も過去に会社の取り組みとして書いたことがありますね!
この二つの施策も、1on1も、どちらも社員に自分自身のキャリアについて考えさせる、という点では共通しています。
なので言ってしまえば、どの施策も「それを生かすも生かさないも人事や管理職次第」と言えるんですよね。
なるほど、成否のカギはそこにあるというと。
これらの施策はすべて、社員がその場しのぎ的に書いたり喋っていたりしたら、全く意味をなさないです。
共通キーワードとなる「キャリア」というものを、社員が自分事化して考えられるよう、人事がその取り組みの重要性を社員に理解してもらい、そして主体的に取り組んでもらう必要があります。
そこではある意味の「強制力」も大事になってくるんですよね。
シートをただ出せば良いのではなく、キャリアシートを運用する本来の意図を理解してもらい、しっかりと考えた上で書いたキャリアシートを提出する、という認識を社員に持ってもらうことです。そのためには、そもそもキャリアとは何で、キャリアを自ら考えることがなぜ必要なのか、という大目的を社員が理解していなければいけません。
当たり前に聞こえるかもしれませんが、意外とこの認識を社員にもってもらうための関わりが難しく、業務で忙しいからとサッと出すような扱われ方をされることも現実ではよくあるんですよね。
私も、人事から言われるがままに「期日までにとりあえず」出していました・・(反省)
そのままシートを渡して「書いて提出してね」と言っても、何を書けばいいのかも分からない人は多いです。
なので、「シートに何を書こう」「面談面談で何を話そう」の前提となる、自分自身のキャリアへの向き合い方を伝える「キャリア研修」が重要となってくるんです。
キャリア自律において考えるべきは”What”ではなく”Why”
それに「キャリア」というものに対する教育がされていないと、各施策においても本来考えるべき要素を考えられず、「10年後に部長になる」とか「〇〇の部署に行きたい」とか、”What”や”Where”を考えがちなんです。
ですが、キャリア自律において考えるべきは”Why”の部分です。そこを研修でしっかりと理解できるようになることが重要なんです。
なるほど、なぜ自分がそこに向かいたいのか、それを考えることの重要性を浸透していくということですね。
その浸透には、会社側がそれぞれの施策を人材戦略に連動できているかどうかも大事になりますね。
とりあえずキャリア自律が必要だと言われているから、と言う理由で施策を導入している企業は多いですが、その一つ一つがどう関連付いていくのか、そこを考えられている企業はまだまだ少ないと感じています。
導入する背景をしっかり設計したうえで実施することで、社員による納得性や理解も得られ、社内の意識改革においても高い効果が得られます。
会社側が中長期的に見て、何のためにキャリア自律を促進していくのか、自社の課題やゴールに沿ったかたちで戦略設計していくことが重要です。
キャリア研修の導入率と推奨頻度
実際にはどれくらいの企業がキャリア研修を導入しているんですか?
ここ数年は自律型人材や人的資本への注目の高まりが追い風となって、かなり多くの企業で導入している、もしくは導入を検討しているフェーズですね。
大手HRメディアである「日本の人事部」の調査データによると、3割強の企業がキャリア開発研修を実施していて、そのうち社員数5,001人以上の企業では過半数が導入しているということも分かっています。
※引用:日本の人事部「3割強の企業がキャリア開発研修を実施。企業規模が大きいほど重要性を認識」
規模が大きい会社になるほど導入率は高いんですね。
実施する頻度としてはどれくらいなのでしょうか?
入社して5年後とか10年後、あとはリーダーや管理職になった昇進タイミングといった、何かの節目に階層別研修として実施しているケースが多いですね。
でも理想としては、まずは新卒研修の一環で実施して、その後2~3年ごとの頻度で実施すると良いですね。
まずは若いうちから自分のキャリアは自分で考えるんだっていう意識付けを持ってもらうことが重要で、そして年齢やポジションが上がっていっても定期的に振り返る力を身に付け、振り返る機会を与えられることが大事だと思っています。
そしてそれもただ実施するのではなく、キャリアを考えることの重要性を、人事がどうメッセージとして伝えられるか、そこが肝ですね。
キャリア研修が「うまくいかない」、2つの問題
「うちの会社の中のキャリア」しか考えてはいけない!?
キャリア研修についてなかなかうまくいかないというお悩みを抱えている人事の方が多いようですが、現場ではどのような課題があるのでしょうか?
うまくいかない理由として、まずは組織内でしかキャリアを考えさせていないという問題があります。
たとえばキャリアプランシートを書かせる際に、「この会社でどうなりたいか」を軸に書かせていたりするんですよね。
そこにはどうしても人事として「転職してもらいたくない」などの背景があるのは分かるのですが、でもそれは、社員の自律促進という面では大きな阻害要因となってしまっています。
転職してほしくないがゆえに、会社内での展望を書かせてしまうと。
裏側にはそういう心理が潜在的にはありますよね。
でも実は、キャリア自律が転職意向には繋がらないという事がデータで出ているんですよね。
だから自社の社員の離職を恐れて社員の世界を狭めてしまうのは本当にもったいないことで、むしろ自律的に自分の人生を進めていける人材が多いと会社の成長にも繋がっていきます。
それに業績だけでなくブランディングとしても有効ですね。
どこの会社に行っても通用する人材を多く抱えていて、それでもその人たちはやりたいことがあるから他を選ばずに自社にいるって、すっごく素晴らしい人的資本だと思うんですよ。
会社として本当に良い商品・サービスを提供するには、世の中の市場を意識した開発をしていく必要があって、そのために社員は社外も含めたネットワークを使い行動をしていくことが重要です。そこにいかに会社がキャリアを軸にしたサポートを行い、社員が自ら自己投資できるかがカギとなります。
そこを、人事や経営層が正しく認識しておくことが大事ですね。
「何のため・誰のための研修なのか」というメッセージング不足
あともう一つの問題として、先ほどの話にもあった、社員にキャリア研修を実施している理由をしっかりと伝えきれていない、というのも大きいです。
キャリアを考えることが会社のためではなく自分自身のためなんだ、という認識を浸透させていかないと、研修参加者は「これって会社のための研修だよね・・?」と捉えてしまい、受動的な姿勢になってしまいます。
特にゆとり世代以下は「誰トク主義」と言われていて、これって会社のための研修なんじゃない・・?と感じ取った瞬間にその後の研修も冷ややかな目で見て終わる、という懸念があります。
そしてその結果、キャリアシートに会社や上司が喜ぶような絵空事を書いてしまうと。
なるほど、研修のゴールもそうですが、「会社ではなく社員である皆さん自身の人生のためなんだよ」ということを納得感のあるメッセージとして伝えられているか、ということですね。
絵空事で考えさせないためのキャリア研修のポイント
キャリアフレームワーク「Will Can Must」の誤解と要点
では、そのような絵空事ではない、自分に向き合ったキャリアを社員に考えさせていくには、キャリア研修では何がポイントとなるのでしょうか?
キャリア研修でよく使われる「Wii Can Must」というキャリアプラン策定におけるフレームワークがありますが、その活用方法にポイントがあると考えます。
「Wii Can Must」!
「Wii Can Must」は、仕事を通じて目指したい姿に対して、モチベーション維持や能力開発も含めたこれからのキャリアを考える際のワークシートとして使われます。
「Will:やりたいこと」「Can:できること」「Must:やるべきこと」を考えてシートに書いていき、その3つの重なりが大きい方がキャリアとしてはハッピーなんです。
だけど、本来考えるべきレベルにまで落とし込めていない表面的なモノ・コト(”What”や”where”)をそのまま記入していたり、そこを人事側もフォローできていないということが多いです。
本来考えるべきこととはどういう点でしょうか?
「Will」は自分が情熱を傾けられることを、「Can」は自分自身を支えている才能を、「Must」には他者から期待されている役割を書いていく事です。
そうすることで、そこに向けて自分がこれから何をしていくといいのか、投資行動をとりやすくなるんですよね。
たとえば、「Will」に「マーケティングがやりたい」とか「営業部以外に行きたい」とか書く人が多いのですが、そうではなく、「戦略立案など頭を使いたい」とか「データを眺めていたい」のような、もっと”欲求に近い”ことを書くべきなんですよね。
「Can」では、「プレゼンが上手にできる」「英語が話せる」といった他者から評価されるであろうスキルや資格を書きがちですが、自分の傾向から見える才能や資質によって相手に貢献できることを書くべきなんです。たとえば「物事の構造で見ることが出来ます」とか。
そして「Must」は、「営業で数字を取る」などのやるべきタスクを書くのではなく、他者から期待されている”役割”を書いていきます。たとえば、「チームの雰囲気を盛り上げる」とか「ブレーンとして戦略を考える」とかですね。
「Must」は「しなければならない」で考えるのではなく、”役割期待”なんですね!
だけど、役割期待って日頃から上司に言われていないと、研修の場でいざ書こうとしても書けないんですよね。なので、そこを上司が業務や1on1などで期待値として伝えられているか、というのも大事なポイントですね。
そのような自分自身のチームにおける「期待」を念頭に置いたうえで、「Will」や「Can」に向けてどこまで折り合いをつけていけるか。それが、この最後の重なりの部分を考えていくために重要です。
重なりが明確になることで、主体的な取り組み姿勢が醸成されていきます。
自分のつよみを活かして勉強会してみようかな、アイディア出ししてみようかな、とか。
自分の持っているものをみんなに提供していきたいと思うこと、それがキャリア自律の大事な一歩ですね。
「Can」から考えると、「Will」が見えてくる
あとは「Wii Can Must」の書き方として、「Can」から書き始めることもポイントです。
「Can」か・・・私だと何があるかな。
「利きビールが出来ます!」くらいしか書けないんですけど、研修の場で書くのは気が引けちゃいますね。
むしろ、そういったプライベート起点で書いて大丈夫なんですよ。
人事側もビジネス軸で書かせることが多いのですが、そこはひとつの誤解で、仕事以外も含めて考えていくことが才能・資質の観点で見ると「Will」や「Must」への糸口になっていきます。
さしみちゃんの場合、なぜビール好きなのか、そのこだわりを深堀りしていくと、仕事面でもそのこだわりを活かせていたりするんです。趣味の部分からそういう根っこの部分に繋げていくことで、なぜそこまで情熱を傾けられるのか、と言う点で「Will」が見えてきます。
なるほど、根源となる欲求は実は「Can」に隠されているということですね!
社内出世に向けた「キャリアパス」を考えればよかった時代は「Will」から考えることで問題はなかったんですよね。
従業員が仕事を通じて実現したいこと(Will)を明らかにして、その実現のために何ができるか(Can)を確認したうえで、何をすべきか(Must)を考えていくと、キャリアパスに繋げていくことができていました。
だけど今のVUCA時代では、自社内にとどまらないキャリアを考えていかなきゃいけないですし、それに「Will」が書けない人も多いんです。なのでまずは「Can」から書くことを促すことで、何を目指していきたいのかという気づきを与えてあげられます。
その「Can」を“貢献軸”で考えていくためにも、また「Will」を”情熱軸”で考えていくためにも、ストレングスファインダーは有効ですね。
ストレングスファインダーの資質上位5つの結果からは、Can=強みの源泉となる「強みの源泉」がわかります。とにかくたくさんの情報を集められる、習慣化できる、目標に向かって集中できる、など、自分の持つ「強みの源泉」がわかることで、本質的な「Can」を最短ルートで探求することができます。
そこから「Must」の役割期待、相手のニーズに対して何を頑張ればいいのかもストレングスファインダーの資質を軸に紐解いていくことが出来ます。
例えば上司からの手紙などを用いて、周囲からの期待役割を理解することで、自分の資質を相手の期待を超えるためにどのように発揮すべきかを考えることができます。自分の資質というのは「苦労なくできること」なので、なぜか「やれる気がする、やりたくなる」ものに変わるので、最終的には「Must」が「Will」へと変わっていくんです。
自分のキャリア開発における気付きのサポートとして、ストレングスファインダーを上手く活用していくと本人の納得性も高く、自律的に仕事に向かう姿勢を醸成していくことができますね。
キャリア開発の初めの一歩は、まずは自分を知ること・客観的に見れるようになることだとだと考えています。何かやりたいことがあって、未来を見据えたキャリアを描ける人も中にはいるとは思いますが、少ないと感じています(個人的な見解ですが…)
それならば、無理して絞りだした未来に向かうよりも、今ある自分を客観的に見て未来を描く方が絵空事にならないキャリアが描けます。その客観視にストレングスファインダーはとても有効ですね。
なるほど、ありがとうございます!
私も改めて自分のキャリアを考えてみようかなと思いました…!
まとめ
【まとめ】キャリア研修を成功に導く5つのポイント
・キャリアを”What”ではなく”Why”の視点で考える
・「会社内でのキャリア」を考えるのではなく人生全体で考える
・VUCA時代における「WiiCanMust」の考え方は、「Will」は情熱、「Can」は(貢献できる)才能、「Must」は役割期待
・「Can」から考えることで真の「Will」が見えてくる
・ストレングスファインダーの資質を軸に根源欲求からキャリアと向き合う
スパークルチームでは、社員のキャリア自律の促進(キャリア開発)に向けたストレングスファインダー活用についてサポートしています。
キャリア開発施策にお悩みの人事・組織開発をご担当されている方は 、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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